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公開番号
2025168130
公報種別
公開特許公報(A)
公開日
2025-11-07
出願番号
2024073277
出願日
2024-04-27
発明の名称
グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンフィルムを連続して製造する方法
出願人
個人
代理人
主分類
C01B
32/194 20170101AFI20251030BHJP(無機化学)
要約
【課題】液体を介してグラフェンの扁平面同士を重ね合わせた懸濁液を作成し、該懸濁液を用い、第一のシートを連続して成形する方法を見出す。第一のシートを用い、グラフェンフィルムの厚みに近い第二のシートを連続して成形する方法を見出す。さらに、第二のシートを用い、グラフェンフィルムを連続して製造する方法を見出す。
【解決手段】第一のアルコール中でグラフェンの集まりを、1枚1枚のグラフェンに分離させ、さらに、第一のアルコールより粘度が高い第二のアルコールを混合し、この後、3方向の振動加速度を繰り返し加え、扁平面を上にしてグラフェンの集まりを平面状に並ばせ、この後、押出成形機のTダイのリップから、シートを連続して押し出す。さらに、押し出されたシートを第一の多段圧延機で圧縮し、シートの厚みをグラフェンフィルムに近づけ、さらに第二の多段圧延機で圧縮し、グラフェンフィルムを連続して成形する。
【選択図】図1
特許請求の範囲
【請求項1】
グラフェンの扁平面同士が直接重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンフィルムを連続して製造する方法は、
2枚の平行平板電極のうちの一方の平行平板電極を容器に配置し、製造するグラフェンフィルムの幅と厚みと長さとに応じて予め決めた重量からなる鱗片状黒鉛粒子の集まりを、ないしは、塊状黒鉛粒子の集まりを、前記一方の平行平板電極の表面に平坦に敷き詰める、さらに、沸点が100℃以下で、20℃の密度が0.80g/cm
3
以下で、20℃の粘度が1-2mPa・秒である性質を兼備する第一のアルコールを、前記鱗片状黒鉛粒子の集まり、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりの重量の10倍を超える重量として秤量し、該秤量した第一のアルコールを、前記容器に充填し、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりを、前記第一のアルコール中に浸漬させ、さらに、他方の平行平板電極を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを介して、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせる、これによって、前記2枚の平行平板電極が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを介して離間し、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して離間し、該2枚の平行平板電極が前記第一のアルコール中に浸漬する、
この後、前記2枚の平行平板電極の間隙に、予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりに、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記黒鉛粒子の集まりの全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面同士の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力が、前記黒鉛粒子を形成する基底面同士の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与えられる、これによって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する基底面同士の層間結合の全てが同時に破壊され、前記2枚の平行平板電極の間隙に、前記基底面に相当するグラフェンの集まりが析出する、
この後、前記2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、該2枚の平行平板電極を前記第一のアルコール中で傾斜させ、さらに、前記容器に、0.2-0.3Gの大きさからなる左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記2枚の平行平板電極の間隙から前記第一のアルコール中に移動させる、この後、前記容器から前記2枚の平行平板電極を取り出す、
さらに、前記容器内の第一のアルコール中で超音波方式のホモジナイザー装置を稼働させ、前記第一のアルコールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を継続して加える、これによって、前記グラフェンの集まりが、前記第一のアルコール中で1枚1枚のグラフェンに分離し、該分離したグラフェンの集まりが前記第一のアルコール中に分散する、この後、前記容器から前記超音波方式のホモジナイザー装置を取り出す第一の工程と、
沸点が前記第一のアルコールの沸点より高く、25℃の密度が0.83g/cm
3
以下で、20℃の粘度が6-10mPa・秒で、前記第一のアルコールに溶解ないしは混和する性質を兼備する第二のアルコールを、前記第一のアルコールとの混合液が持つ20℃における粘度が4-6mPa・秒になる量として、前記容器に混合する、これによって、該第二のアルコールが前記第一のアルコールに溶解ないしは混和し、2種類のアルコールの混合液となり、該2種類のアルコールの混合液中で前記グラフェンが1枚1枚のグラフェンに分離するとともに、該分離したグラフェンの集まりが、前記2種類のアルコールの混合液中に分散する、
さらに、前記容器に、0.3-0.5Gの大きさからなる前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加える、これによって、前記グラフェンの扁平面同士が前記2種類のアルコールの混合液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなる懸濁液が、前記容器に形成される第二の工程と、
押出成形機について、製造するグラフェンフィルムの幅と、製造するグラフェンフィルムの厚みの10-20倍の間隙を有するTダイのリップを持つ押出成形機を予め用意し、前記第二の工程で作成した懸濁液を、該押出成形機のホッパーに連続して充填し、さらに、該押出成形機のスクリューを連続して作動させ、前記ホッパーに充填された懸濁液を、該押出成形機のTダイに連続して押出す、これによって、前記Tダイに入り込んだ懸濁液は、該Tダイのマニホールドを通過した後に、該Tダイのリップから、製造するグラフェンフィルムの幅と、製造するグラフェンフィルムの厚みの10-20倍の厚みを有する前記懸濁液からなるシートとして連続して押し出され、該押し出されたシートを、1回転に要する時間が10秒より長い周速度で回転する第一の巻き取り機で、連続して巻き取る第三の工程と、
多段圧延機の2つのワークロールが、第一に、製造するグラフェンフィルムの幅より広い同じ幅を持ち、第二に、直径が製造するグラフェンフィルムの幅の1/10より小さい同じ大きさの直径を持ち、第三に、製造するグラフェンフィルムの5倍の厚みとして間隙が設定され、第四に、前記第一の巻き取り機と同じ周速度で互いに反対方向に回転し、第五に、前記第一のアルコールの沸点より10℃高い温度に昇温された5つの特徴を有し、該2つのワークロールを持つ多段圧延機を、第一の多段圧延機として予め用意し、前記2つのワークロールの間隙に、前記第三の工程で巻き取られたシートの先端を挿入し、該シートを、前記2つのワークロールの間隙で連続して圧縮する、最初に、前記第一のアルコールが前記シートから気化し、該シートは、前記第二のアルコールを介して扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりからなるシートになり、次に、前記2つのワークロールの間隙で、該シートが継続して圧縮され、過剰な前記第二のアルコールが、前記シートから滲み出て、該シートの表面に移動し、該シートが、少なくなった前記第二のアルコールを介して扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりからなるシートになり、該シートが、前記2つのワークロールの間隙から、連続して排出される第四の工程と、
多段圧延機の2つのワークロールが、第一に、前記第一の多段圧延機の2つのワークロールと同じ幅と同じ直径を持ち、第二に、前記第一の多段圧延機の2つのワークロールと同じ周速度で互いに反対方向に回転し、第三に、製造するグラフェンフィルムの厚みとして間隙が設定され、第四に、前記第二のアルコールの沸点より10℃高い温度に昇温された4つの特徴を有し、該2つのワークロールを持つ多段圧延機を、第二の多段圧延機として予め用意し、前記2つのワークロールの間隙に、前記第四の工程で作成したシートの先端を挿入し、該シートを、前記2つのワークロールの間隙で連続して圧縮する、最初に、前記第二のアルコールが前記シートから気化し、該シートが、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合った該グラフェンの集まりになり、次に、前記2つのワークロールの間隙で、該グラフェンの集まりが継続して圧縮され、前記グラフェンの扁平面同士が直接重なり合った該扁平面に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記直接重なり合った扁平面同士が接合し、該扁平面同士が直接重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンフィルムが形成され、該グラフェンフィルムが前記2つのワークロールの間隙から連続して排出され、該排出されたグラフェンフィルムを、前記第一の巻き取り機と同じ周速度で回転する第二の巻き取り機で、連続して巻き取る第五の工程とからなり、
これら5つの工程からなる全ての処理を連続して実施する方法が、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンフィルムを連続して製造する方法。
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【請求項2】
請求項1に記載したグラフェンフィルムを連続して製造する方法は、
請求項1に記載した第一のアルコールが、エタノールないしは1-プロパノールのいずれかのアルコールであり、該アルコールを請求項1に記載した第一のアルコールとして用い、請求項1に記載した5つの工程からなる全ての処理を連続して実施する方法が、請求項1に記載したグラフェンフィルムを連続して製造する方法。
【請求項3】
請求項1に記載したグラフェンフィルムを連続して製造する方法は、
請求項1に記載した第二のアルコールが、1-へプタノール、3-ペンタノール、1-オクタノール、ないしは、2-エチルヘキサノールからなるいずれか1種類のアルコールであり、該1種類のアルコールを請求項1に記載した第二のアルコールとして用い、請求項1に記載した5つの工程からなる全ての処理を連続して実施する方法が、請求項1に記載したグラフェンフィルムを連続して製造する方法。
【請求項4】
請求項1に記載した方法でグラフェンフィルムを連続して製造し、該グラフェンフィルムの一部を基材の表面の形状に切断し、該切断したグラフェンフィルムを、前記基材の片方の表面ないしは前記基材の双方の表面に接合させる方法は、
請求項1に記載した方法でグラフェンフィルムを連続して製造し、該グラフェンフィルムの一部を基材の表面の形状に切断し、該切断したグラフェンフィルムを、前記基材の片方の表面ないしは前記基材の双方の表面に重ね合わせ、さらに、該重ね合わせたグラフェンフィルムの表面全体を、圧縮機に設けた治具によって均等に圧縮する、これによって、該重ね合わせたグラフェンフィルムの表面が、前記基材の片方の表面ないしは前記基材の双方の表面の凹凸の凸部と接触し、該凸部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記凸部が前記グラフェンフィルムの片方の表面ないしは前記グラフェンフィルムの双方の表面に接合し、前記切断したグラフェンフィルムが、前記基材の片方の表面ないしは前記基材の双方の表面に接合する、この後、前記治具を前記グラフェンフィルムから引き離す、
請求項1に記載した方法でグラフェンフィルムを連続して製造し、該グラフェンフィルムの一部を基材の表面の形状に切断し、該切断したグラフェンフィルムを、前記基材の片方の表面ないしは前記基材の双方の表面に接合させる方法。
【請求項5】
請求項1に記載した方法でグラフェンフィルムを連続して製造し、該グラフェンフィルムの一部を予め決めた形状に切断し、該切断したグラフェンフィルムを、基材ないしは部品の表面の予め決めた位置に接合させる方法は、
請求項1に記載した方法でグラフェンフィルムを連続して製造し、該グラフェンフィルムの一部を予め決めた形状に切断し、該切断したグラフェンフィルムを、基材ないしは部品の表面の予め決めた位置に重ね合わせ、さらに、該重ね合わせたグラフェンフィルムの表面全体を、圧縮機に設けた治具によって均等に圧縮する、これによって、該重ね合わせたグラフェンフィルムの表面が、前記基材ないしは前記部品の表面の凹凸の凸部と接触し、さらに、該凸部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記凸部が前記重ね合わせたグラフェンフィルムの表面に接合し、前記切断したグラフェンフィルムが、前記基材ないしは前記部品の表面の予め決めた位置に接合する、この後、前記治具を前記グラフェンフィルムから引き離す、
請求項1に記載した方法でグラフェンフィルムを連続して製造し、該グラフェンフィルムの一部を予め決めた形状に切断し、該切断したグラフェンフィルムを、基材ないしは部品の表面の予め決めた位置に接合させる方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、次の5つの工程からなる処理を連続して実施し、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンフィルムを連続して製造する方法である。なお、製造するグラフェンフィルムの厚みがナノレベルであるため、グラフェンの集まりをグラフェンフィルムと記載した。
第一の工程において、20℃における粘度が1-2mPa・秒である第一のアルコール中で、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の層間結合を破壊し、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンの集まりを第一のアルコール中に分散させる。
第二の工程において、20℃の粘度が6-10mPa・秒である第二のアルコールを混合し、2種類のアルコールの混合液が持つ20℃における粘度を4-6mPa・秒とし、該2種類のアルコールの混合液を介して、グラフェンの扁平面同士が重なり合った該グラフェンの集まりからなる懸濁液を作成する。
第三の工程において、押出成形機のホッパーに懸濁液を連続して充填し、押出成形機のTダイのマニホールドを通過させた後に、Tダイのリップから、製造するグラフェンフィルムの幅と、製造するグラフェンフィルムの厚みの10-20倍の厚みを有する懸濁液からなるシートを、連続して押し出す。
第四の工程において、第一に、製造するグラフェンフィルムの幅より広い同じ幅を持ち、第二に、直径が製造するグラフェンフィルムの幅の1/10より小さい同じ大きさの直径を持ち、第三に、製造するグラフェンフィルムの5倍の厚みで間隙が設定され、第四に、1回転に要する時間が10秒より長い同じ周速度で互いに反対方向に回転し、第五に、懸濁液の第一のアルコールの沸点より10℃高い温度に昇温された5つの特徴を持つ第一の多段圧延機の2つのワークロールの間隙で、シート状の懸濁液を連続して圧縮する。
第五の工程において、第一の多段圧延機の2つのワークロールと同じ幅と同じ直径を持ち、かつ、同じ周速度で互いに反対方向に回転し、製造するグラフェンフィルムの厚みとして間隙が設定され、第二のアルコールの沸点より10℃高い温度に昇温された第二の多段圧延機の2つのワークロールの間隙で、シート状の懸濁液を連続して圧縮し、グラフェンフィルムを連続して製造する。
なお、グラフェンは、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する二次元層状の物質であり、炭素原子の集まりからなる単結晶材料である。また、本発明では、グラフェンの集まりを、扁平面同士で直接重なり合わせ、扁平面同士を直接接合した厚みがナノレベルと薄いシート状のグラフェンの集まりを、グラフェンフィルムと呼ぶ。いっぽう、黒鉛粒子は、黒鉛の単結晶のみからなり、黒鉛の結晶化が100%進んだ最も安価な炭素材料である。このため、本発明では、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊し、黒鉛結晶の基底面からなるグラフェンの集まりを製造した。
本発明に近い先行出願として、本発明者は、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを、容器の底面に該底面の形状として製造する技術を、特許7195513号として出願している。先行出願がバッチ処理であるのに対し、本願は連続処理である点に違いがある。
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【背景技術】
【0002】
2004年に英国マンチェスター大学の物理学者が、セロファンテープを使用して、グラファイトから1枚の結晶子、すなわち、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する基底面を引きはがし、炭素原子の大きさが厚みとなる平面状の物質を取り出すことに初めて成功した。この新たな物質をグラフェンと呼んだ。この研究成果に対して、2010年のノーベル物理学書が授与されている。
【0003】
グラフェンは、厚みが炭素原子の大きさに相当する2次元層状の物質であり、2次元層状のグラフェンの扁平面の性質が、グラフェンの性質になる。また、厚みが炭素原子の大きさに相当するため、質量を殆ど持たない。このため、従来の物質とは大きくかけ離れた物性を持ち、幅広い用途に応用できる材料として注目されている。
例えば、厚みが0.332nmからなる最も薄い材料である。また、単位質量当たりの表面積が3000m
2
/gである最も広い表面積を持つ。さらに、ヤング率が1020GPaと大きな値を持ち、最も伸長ができ、折り曲げができる材料である。また、せん断弾性率が440GPaという大きな数値を持つ最も強靭な物質である。さらに、熱伝導率は19.5W/Cmで、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍の熱伝導率を持つ。また、最大電流密度は360MA/cm
2
で、銅の100倍を超える。さらに、銅の比抵抗の23倍に過ぎない電気導電性を持つ。また、電子移動度が15000cm
2
/ボルト・秒であり、シリコーンの移動度の1400cm
2
/ボルト・秒より一桁以上高い値を持つ。さらに、融点が3000℃を超え、耐熱性が極めて高い材料である。また、炭素原子の集まりからなる単結晶材料であるため、酸やアルカリと反応しない優れた耐食性を持つ。
【0004】
いっぽう、グラフェンは様々な方法で製造される。例えば、前記したマンチェンスター大学の教授は、人の手でグラファイトからグラフェンを物理的に引きはがした。この方法は、大量のグラフェンを短時間に引き剥がすことは困難で、また、剥がされたものが黒鉛結晶の単一層、つまり、グラフェンになるとは限らない。
また、特許文献1に、炭化ケイ素の単結晶を熱分解することでグラフェンを製造する方法が記載されている。つまり、炭化ケイ素を不活性雰囲気で加熱し、表面を熱分解させる。この際、昇華温度が相対的に低いケイ素が優先的に昇華し、残存した炭素によってグラフェンが生成される。しかし、炭化ケイ素の単結晶が非常に高価な材料である。さらに、1600℃を超える高温で、かつ、真空度が高い雰囲気でケイ素を昇華させるが、ケイ素が僅かでも残存した場合は、熱分解後の残渣物としてグラフェンが生成されない。このため、炭化ケイの単結晶の生成と、単結晶の熱分解処理に係わる費用は非常に高価になる。また、大量のグラフェンを製造するには、さらに高価な費用が掛かる。
さらに、特許文献2に、シート状の単結晶のグラファイト化金属触媒に、炭素系物質を接触させ、還元性雰囲気で熱処理することで、グラフェンを製造する方法が記載されている。しかし、この製造方法も安価な製造方法とは言えず、かつ、量産性に優れた製造方法ではない。第一に、単結晶のグラファイト化金属触媒を製造する製造コストは、炭化ケイ素の単結晶よりさらに高い。第二に、単結晶のグラファイト化金属触媒を炭素系物質に接触させる方法は量産性に劣る。第三に、水素ガスを含む窒素ガスがリッチな雰囲気で、1000℃を超える高温度で、グラファイト化金属触媒を還元処理する方法は、熱処理費用が高価になる。従って、大量のグラフェンを製造するには、さらに高価な費用が掛かる。
【0005】
現在までのグラフェンの製造方法はいずれも、第一に、安価な製造方法で大量のグラフェンを同時に製造する方法ではない。第二に、製造したグラフェンが必ずしもグラフェンでない。つまり、グラフェンは、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する炭素原子の集まりからなる単結晶材料であり、不純物が全くない雰囲気で、炭素原子の結晶成長ができなければ、グラフェンが生成されない。さらに、生成したグラフェンの厚みが極薄く、極軽量であるため、グラフェンであることを確認する方法が困難である。
このため、本発明者は、製造したグラフェンが全て完全なグラフェンで、かつ、極めて簡単な方法で大量のグラフェンを瞬時に製造する方法を見出した(特許文献3)。すなわち、黒鉛の単結晶のみからなり、黒鉛の結晶化が100%進み、さらに、最も安価な炭素材料である天然の黒鉛結晶の塊を破砕し、破砕した黒鉛結晶から鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子の集まりを選別した黒鉛粒子の集まりを、2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰め、2枚の平行平板電極に電界を印加し、電界の印加によって黒鉛粒子を形成する全ての黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊し、黒鉛結晶の基底面からなるグラフェンを大量に製造する方法である。この製造方法に依れば、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子の僅か1gから、1.62×10
13
個に及ぶグラフェンの集まりが瞬時に得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特開2015-110485号公報
特開2009-143799号公報
特許第6166860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
3段落で説明したように、グラフェンが2次元層状の物質であるため、従来の素材とは全くかけ離れた驚異的な物性を持つ。このため、グラフェンを用いた様々な部品やデバイの研究開発が行われている。従って、安価な方法でグラフェンの集まりを製造し、該グラフェンの集まりを用いて、グラフェンの扁平面同士を直接重なり合わせて接合したグラフェンフィルムを安価に製造する方法が見出されれば、グラフェンフィルムを用いた安価な部品やデバイスの実用化が進む。つまり、グラフェンが2次元層状の物質であるため、グラフェンの扁平面の性質が、グラフェンの性質になる。従って、グラフェンの扁平面同士を直接接合したグラフェンシートは、グラフェンの性質を持つ。さらに、グラフェンフィルムを様々な材質の基材や部品の表面に直接接合できれば、基材や部品の表面にグラフェンの性質が付与できる。
いっぽう、特許文献3による製造方法で、大量のグラフェンを瞬時に製造できるが、グラフェンの扁平面同士を直接接合したグラフェンフィルムを製造する方法は見出されていない。また、グラフェンは、単一の結晶子からなる極めて厚みが薄い物質であり、極めて軽量で、殆ど質量を持たない。このため、特許文献3における電界の印加によって、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊してグラフェンの集まりを製造する際に、製造時と製造後において、グラフェンが極めて容易に飛散する。さらに、グラフェンは厚みが極めて薄いため、厚みに対する結晶面の大きさの比率であるアスペクト比が極めて大きい扁平面を持つ。また、黒鉛粒子が一定の形状を持ち、黒鉛粒子の形状は同一でないため、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊して製造したグラフェンのアスペクト比は、個々のグラフェンで異なる。従って、特許文献3における製造方法では、グラフェンの製造時に、容易にグラフェンンの扁平面同士が重なり合う。さらに、重なり合ったグラフェンの枚数は一定でない。また、扁平面同士で重なり合ったか否かを識別することは極めて困難で、電子顕微鏡の観察で識別する。しかし、グラフェンの扁平面同士が物理的に重なっただけで、扁平面同士の接合力が極めて微小で、グラフェンが殆ど質量を持たない。このため、グラフェンの扁平面同士の接合部に直接負荷を加えると、重なり合ったグラフェンが分離する。
従って、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合って接合したグラフェンフィルムを製造するに当たり、解決すべき課題として次の7つの課題がある。
第一に、粘度が低く、沸点が低い液体が充填された容器内で、大量のグラフェンの集まりを製造する方法を見出す。これによって、グラフェンの製造時と製造後において、液体中に析出したグラフェンは飛散しない。しかし、グラフェンの一部が製造時に扁平面同士で重なり合う課題が残る。
第二に、前記した容器内で、析出したグラフェンの集まりを、1枚1枚のグラフェンに分離させ、さらに、液体を介してグラフェンの扁平面同士を重ね合わせ、該グラフェンの集まりを、液体中に分散した懸濁液を作成する方法を見出す。これによって、全てのグラフェンが液体と接触し、グラフェンのアスペクト比が極めて大きく、グラフェンが極めて軽量であるため、その後の処理では、グラフェンの扁平面同士が再度重なり合わない。
第三に、前記した懸濁液の粘度を増大させた新たな懸濁液を作成する方法を見出す。これによって、新たな懸濁液からなる厚みが薄いシートが連続して成形できる。
第四に、作成するグラフェンフィルムの幅を持ち、作成するグラフェンフィルムの厚みより厚みが厚いシートを、新たな懸濁液を用いて連続して成形する方法を見出す。これによって、グラフェンフィルムを形成する方法が見出せる。
第五に、新たな懸濁液からなるシートから、液体の一部を気化させ、さらに、シートを連続して圧縮し、過剰な液体をグラフェンの集まりから滲み出させ、グラフェンフィルムの厚みに近づけた厚みからなるシートを連続して成形する方法を見出す。
第六に、シートから全ての液体を気化させ、さらに、シートを連続して圧縮することで、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合ったグラフェンフィルムを連続して製造する方法を見出す。
第七に、グラフェンフィルムを製造する工程における全ての処理が極めて簡単な処理で、また、用いる材料が汎用的な安価な材料であるグラフェンフィルムの製造方法を見出す。これによって、安価な黒鉛粒子の集まりを用いて、安価な製造方法でグラフェンの集まりを製造し、安価な方法でグラフェンフィルムが製造できる。
本発明が解決しようとする課題は、上記7つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明におけるグラフェンの扁平面同士が直接重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンフィルムを連続して製造する方法は、
2枚の平行平板電極のうちの一方の平行平板電極を容器に配置し、製造するグラフェンフィルムの幅と厚みと長さとに応じて予め決めた重量からなる鱗片状黒鉛粒子の集まりを、ないしは、塊状黒鉛粒子の集まりを、前記一方の平行平板電極の表面に平坦に敷き詰める、さらに、沸点が100℃以下で、20℃の密度が0.80g/cm
3
以下で、20℃の粘度が1-2mPa・秒である性質を兼備する第一のアルコールを、前記鱗片状黒鉛粒子の集まり、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりの重量の10倍を超える重量として秤量し、該秤量した第一のアルコールを、前記容器に充填し、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりを、前記第一のアルコール中に浸漬させ、さらに、他方の平行平板電極を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを介して、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせる、これによって、前記2枚の平行平板電極が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを介して離間し、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して離間し、該2枚の平行平板電極が前記第一のアルコール中に浸漬する、
この後、前記2枚の平行平板電極の間隙に、予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まり、ないしは、前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記黒鉛粒子の集まりの全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面同士の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力が、前記黒鉛粒子を形成する基底面同士の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与えられ、これによって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する基底面同士の層間結合の全てが同時に破壊され、前記2枚の平行平板電極の間隙に、前記基底面に相当するグラフェンの集まりが析出する、
この後、前記2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、該2枚の平行平板電極を前記第一のアルコール中で傾斜させ、さらに、前記容器に、0.2-0.3Gの大きさからなる左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記2枚の平行平板電極の間隙から前記第一のアルコール中に移動させる、この後、前記容器から前記2枚の平行平板電極を取り出す、
さらに、前記容器内の第一のアルコール中で超音波方式のホモジナイザー装置を稼働させ、前記第一のアルコールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を継続して加える、これによって、前記グラフェンの集まりが、前記第一のアルコール中で1枚1枚のグラフェンに分離するとともに、該分離したグラフェンの集まりが前記第一のアルコール中に分散する、この後、前記容器から前記ホモジナイザー装置を取り出す第一の工程と、
沸点が前記第一のアルコールの沸点より高く、20℃の密度が0.83g/cm
3
以下で、20℃の粘度が6-10mPa・秒で、前記第一のアルコールに溶解ないしは混和する性質を兼備する第二のアルコールを、前記第一のアルコールとの混合液が持つ20℃における粘度が4-6mPa・秒になる量として、前記容器に混合する、これによって、該第二のアルコールが前記第一のアルコールに溶解ないしは混和し、2種類のアルコールの混合液となり、該2種類のアルコールの混合液中で前記グラフェンが1枚1枚のグラフェンに分離するとともに、該分離したグラフェンの集まりが、前記2種類のアルコールの混合液中に分散する、
さらに、前記容器に、0.3-0.5Gの大きさからなる前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加える、これによって、前記グラフェンの扁平面同士が前記2種類のアルコールの混合液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなる懸濁液が、前記容器に形成される第二の工程と、
押出成形機について、製造するグラフェンフィルムの幅と、製造するグラフェンフィルムの厚みの10-20倍の間隙を有するTダイのリップを持つ押出成形機を予め用意し、前記第二の工程で作成した懸濁液を、該押出成形機のホッパーに連続して充填し、さらに、該押出成形機のスクリューを連続して作動させ、前記ホッパーに充填された懸濁液を、該押出成形機のTダイに連続して押出す、これによって、前記Tダイに入り込んだ懸濁液は、該Tダイのマニホールドを通過した後に、該Tダイのリップから、製造するグラフェンフィルムの幅と、製造するグラフェンフィルムの厚みの10-20倍の厚みを有する前記懸濁液からなるシートが連続して押し出され、該押し出されたシートを、1回転に要する時間が10秒より長い周速度で回転する第一の巻き取り機で巻き取る第三の工程と、
多段圧延機の2つのワークロールが、第一に、製造するグラフェンフィルムの幅より広い同じ幅を持ち、第二に、直径が製造するグラフェンフィルムの幅の1/10より小さい同じ大きさの直径を持ち、第三に、製造するグラフェンフィルムの5倍の厚みとして間隙が設定され、第四に、前記第一の巻き取り機と同じ周速度で互いに反対方向に回転し、第五に、前記第一のアルコールの沸点より10℃高い温度に昇温された5つの特徴を有し、該2つのワークロールを持つ多段圧延機を、第一の多段圧延機として予め用意し、前記2つのワークロールの間隙に、前記第三の工程で巻き取られたシートの先端を挿入し、該シートを、前記2つのワークロールの間隙で連続して圧縮する、最初に、前記第一のアルコールが前記シートから気化し、該シートは、前記第二のアルコールを介して扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりからなるシートになり、次に、前記2つのワークロールの間隙で、該シートが継続して圧縮され、過剰な前記第二のアルコールが、前記シートから滲み出て、該シートの表面に移動し、該シートが、少なくなった前記第二のアルコールを介して扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりからなるシートになる第四の工程と、
多段圧延機の2つのワークロールが、第一に、前記第一の多段圧延機の2つのワークロールと同じ幅と同じ直径を持ち、第二に、前記第一の多段圧延機の2つのワークロールと同じ周速度で互いに反対方向に回転し、第三に、製造するグラフェンフィルムの厚みとして間隙が設定され、第四に、前記第二のアルコールの沸点より10℃高い温度に昇温された4つの特徴を有し、該2つのワークロールを持つ多段圧延機を、第二の多段圧延機として用意し、前記2つのワークロールの間隙に、前記第四の工程で作成したシートの先端を挿入し、該シートを、前記2つのワークロールの間隙で連続して圧縮する、最初に、前記第二のアルコールが前記シートから気化し、該シートが、扁平面同士が直接重なり合ったグラフェンの集まりになり、次に、前記2つのワークロールの間隙で、該扁平面同士が直接重なり合ったグラフェンの集まりが継続して圧縮され、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合った扁平面に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記直接重なり合った扁平面同士が接合し、該グラフェンの扁平面同士が直接重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンフィルムが形成され、該グラフェンフィルムが前記2つのワークロールの間隙から排出され、該排出されたグラフェンフィルムを、前記第一の巻き取り機と同じ周速度で回転する第二の巻き取り機で巻き取る第五の工程とからなり、
これら5つの工程からなる全ての処理を連続して実施する方法が、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンフィルムを連続して製造する方法。
【0009】
上記したグラフェンフィルムを連続して製造する方法は、次の5つの工程からなる。
第一の工程は、次の4つの処理を連続して実施し、第一のアルコール中で1枚1枚のグラフェンに分離させ、分離したグラフェンの集まりを第一のアルコール中に分散させる。
第一の処理は、最初に、製造するグラフェンフィルムの幅と厚みと長さとに応じて予め決めた重量からなる鱗片状黒鉛粒子の集まり、ないしは、塊状黒鉛粒子の集まりを、2枚の平行平板電極のうちの一方の平行平板電極の表面に平坦に敷き詰める。次に、沸点が100℃以下で、20℃の密度が0.80g/cm
3
以下で、20℃の粘度が1-2mPa・秒である性質を兼備する第一のアルコールを、黒鉛粒子の集まりの重量の10倍を超える重量として秤量し、容器に充填する。これによって、一方の平行平板電極に敷き詰めた黒鉛粒子の集まりが、第一のアルコール中に浸漬する。さらに、他方の平行平板電極を、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを介して、一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、2枚の平行平板電極を、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを介して離間させ、離間させた2枚の平行平板電極を第一のアルコール中に浸漬させる。つまり、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の層間結合を破壊し、グラフェンの集まりを2枚の平行平板電極板の間隙に析出させるため、黒鉛粒子の集まりを介して離間させた2枚の平行平板電極板を、第一のアルコール中に浸漬させた。このため、第一のアルコールの重量を、黒鉛粒子の集まりの重量の10倍を超える重量とした。
第二の処理は、2枚の平行平板電極の間隙に、予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する。これによって、電位差の大きさを2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりに、ないしは、塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、この電界の印加によって、黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面同士の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力が、基底面同士の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与えられる。これによって、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子を形成する基底面同士の層間結合の全てが同時に破壊され、2枚の平行平板電極の間隙に、基底面に相当するグラフェンの集まりが析出する。析出したグラフェンは、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。また、2枚の平行平板電極が、第一のアルコール中に浸漬しているため、2枚の平行平板電極の間隙に析出したグラフェンの集まりは飛散しない。これによって、7段落に記載した第一の課題が解決される。なお、第一のアルコールは絶縁体であるため、第一のアルコール中に浸漬した2枚の平行平板電極間に、電位差を印加させると、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する。つまり、イオン性液体を除く殆どの有機化合物は絶縁体である。
ここで、2枚の平行平板電極の間隙に印加した電界によって、2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰めた黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合が、同時に破壊される現象を説明する。
黒鉛粒子における黒鉛結晶を形成する炭素原子は4つの価電子を持つ。このうちの3つの価電子は、基底面、すなわち、グラフェンを形成するσ電子である。このσ電子は、基底面上で隣り合う3つの炭素原子が持つσ電子と互いに120度の角度をなして共有結合し、六角形の強固な網目構造を2次元的に形成する。残り一つの価電子はπ電子であり、基底面に垂直な方向に伸びるπ軌道上に存在する。このπ電子は、基底面に垂直な上下方向で隣り合う炭素原子が持つπ電子と弱い結合力で結合し、この弱い結合力に基づいて基底面が層状に積層される。つまり、基底面、すなわちグラフェンは、弱い結合力であるπ軌道の相互作用によって互いに層状に結合されている。このため、黒鉛粒子は、黒鉛結晶からなる基底面で剥がれ易い性質、すなわち、機械的な異方性を持つ。この機械的な異方性は、黒鉛粒子の潤滑性として良く知られている。つまり、機械的な異方性は、σ電子結合とπ電子結合との電子構造の異方性に基づく。
こうした黒鉛粒子に電界を印加させると、全てのπ電子に電界によるクーロン力が作用する。π電子に作用するクーロン力が、π電子に作用しているπ軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、π電子はπ軌道上の拘束から解放される。この結果、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。これによって、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子がπ軌道上にいなくなるため、基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。すなわち、π電子がクーロン力Fによって基底面の層間距離bの距離を動く際に、π電子は仕事W(W=b・F)を行う。この仕事Wが、π電子に作用する1原子当たりのπ軌道の相互作用の大きさである35ミリエレクトロンボルト (エレクトロンボルトは電子が持つエネルギーの大きさを表す単位で、1エレクトロンボルトは1.62×10
-19
ジュールに相当する)を超えると、π電子はπ軌道の相互作用の拘束から解放されて自由電子になる。例えば、2枚の平行平板電極の間隙を100μmで離間させ、この電極の間隙に10.6キロボルト以上の直流の電位差を印加させると、基底面の層間結合が瞬時に破壊される。このように、安価な黒鉛粒子の集まりに電界を印加するという極めて簡単な手段によって、大量のグラフェンが安価に製造できる。また、黒鉛結晶の基底面の層間結合の全てが同時に破壊するため、得られる微細な物質は、確実に黒鉛結晶からなる基底面であるグラフェンである。
なお、ここで言う黒鉛粒子の集まりとは、1gから100g程度の比較的少量の黒鉛粒子の集まりを言う。つまり、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子は、嵩密度が0.2-0.5g/cm
3
で、粒子の大きさが1-300ミクロンの分布を持つ微細な粒子である。従って、黒鉛粒子の集まりを2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰めることは容易で、2枚の平行平板電極に電位差を印加することも容易である。2枚の平行平板電極の間隙に電位差を印加すると、黒鉛粒子が敷き詰められた全ての領域に電界が発生する。電界が、π軌道の相互作用より大きなクーロン力としてπ電子に作用し、π電子はπ軌道上の拘束から解放され自由電子になる。この結果、黒鉛粒子における黒鉛結晶の基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、2枚の平行平板電極の間隙に、グラフェンの集まりが析出する。
ここで、第一のアルコール中に析出するグラフェンの数を算術で求める。ここでは、全ての黒鉛粒子が、直径が25ミクロンの球から構成されると仮定し、黒鉛の真密度が2.25×10
3
kg/m
3
であるから、黒鉛粒子の1個の重さは僅かに1.84×10
-8
gになる。また、黒鉛粒子の厚みの平均値が10ミクロンと仮定すると、層間距離が3.354オングストロームであるので、10ミクロンの厚みを持つ鱗片状黒鉛粒子には297,265個のグラフェンが積層されている。従って、基底面の層間結合を全て破壊すると、僅か1個の球状の黒鉛粒子から297,265個のグラフェンの集まりが得られる。従って、球状の黒鉛粒子の僅か1gの集まりに対し、基底面の層間結合の全てを破壊すると、1.62×10
13
個からなるグラフェンの集まりが得られる。このように、本製造方法は、僅かな量の黒鉛粒子の集まりで、莫大な数のグラフェンの集まりが得られる。
第三の処理は、2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、さらに、2枚の平行平板電極を第一のアルコール中で傾斜させる。さらに、容器に、製造するグラフェンフィルムの幅と厚みとに応じて、すなわち、容器内の第一のアルコールの量に応じて、0.2-0.3Gの大きさからなる左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、グラフェンの集まりを、2枚の平行平板電極の間隙から第一のアルコール中に移動させる。この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出す。
第四の処理は、容器内の第一のアルコール中で超音波方式のホモジナイザー装置を稼働させ、第一のアルコールを介してグラフェンの集まりに衝撃波を継続して加える。これによって、グラフェンの集まりが、第一のアルコール中で1枚1枚のグラフェンに分離し、分離したグラフェンの集まりが第一のアルコール中に分散する。この後、容器からホモジナイザー装置を取り出す。これによって、7段落に記載した第二の課題が解決される。
つまり、超音波方式のホモジナイザー装置を第一のアルコール中で稼働させると、グラフェンの扁平面よりさらに1桁以上小さい極微細で莫大な数からなる気泡が発生し、瞬時に該気泡が消滅する現象が、超音波の振動周波数の振動周期に応じて、第一のアルコール中で継続して繰り返され(この現象をキャビテーションという)、莫大な数からなる気泡がはじける際の衝撃波が、第一のアルコールを介してグラフェンの集まりの全体に継続して加わる。従って、扁平面同士が重なり合ったグラフェンの扁平面にも衝撃波が加わる。なお、第一のアルコールは、粘度が1-2mPa・秒と低く、また、20℃の密度が0.80g/cm
3
以下と小さいため、衝撃波によって第一のアルコールが励起される割合は低く、衝撃波のエネルギーの多くが損失されずに、グラフェンに照射される。いっぽう、グラフェンの扁平面同士の接合は、単純に扁平面が重なり合っているだけで、扁平面同士の接合力は極めて小さい。また、グラフェンは、厚みが0.332nmと極めて薄いため、殆ど質量を持たない。このため、扁平面同士が重なり合った部位に衝撃波が加わると、重なり合った扁平面同士が分離し、分離したグラフェンの間隙に第一のアルコールが入り込み、短時間で1枚1枚のグラフェンに分離される。なお、黒鉛粒子の基底面の層間結合を破壊して製造したグラフェンは、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。また、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンも、第一のアルコール中での処理を継続したため、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。
第二の工程は、次の2つの処理によって、グラフェンの扁平面同士が2種類のアルコールの混合液を介して重なり合ったグラフェンの集まりからなる懸濁液を容器に形成する。
第一の処理は、沸点が第一のアルコールの沸点より高く、20℃の密度が0.83g/cm
3
以下で、20℃の粘度が6-10mPa・秒で、第一のアルコールに溶解ないしは混和する性質を兼備する第二のアルコールを、製造するグラフェンフィルムの幅と厚みとに応じて、第一のアルコールとの混合液が持つ20℃における粘度が4-6mPa・秒になる量として、容器に混合する。これによって、第二のアルコールが第一のアルコールに溶解ないしは混和し、2種類のアルコールの混合液となり、2種類のアルコールの混合液中でグラフェンが1枚1枚のグラフェンに分離するとともに、分離したグラフェンの集まりが、2種類のアルコールの混合液中に分散する。
なお、20℃における粘度が1-2mPa・秒である第一のアルコールに、20℃における粘度が6-10mPa・秒である第二のアルコールを混合し、2種類のアルコールの混合液が持つ20℃における粘度が4-6mPa・秒とするためには、第一のアルコールの体積より多い体積からなる第二のアルコールを混合することになる。いっぽう、第一の工程で、黒鉛粒子の重量の10倍を超える第一のアルコールを用いた。このため、グラフェンの集まりを、黒鉛粒子の重量の20倍を優に超える重量からなる2種類のアルコールの混合液に分散させることになる。これによって、2種類のアルコールの混合液が持つ密度は、0.82g/cm
3
より小さくなる。
第二の処理は、製造するグラフェンフィルムの幅と厚みとに応じて、すなわち、容器内の2種類のアルコールの混合液の量に応じて、0.3-0.5Gの大きさからなる前後、左右、上下の3方向の振動加速度を容器に繰り返し加える。これによって、グラフェンの扁平面同士が2種類のアルコールの混合液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなる懸濁液が、容器に形成される。これによって、7段落に記載した第三の課題が解決される。
つまり、グラフェンは、厚みが0.332nmと極めて薄く、厚みに対する結晶面の大きさの比率であるアスペクト比が極めて大きい。また、グラフェンは殆ど質量を持たない。さらに、1枚1枚に分離されたグラフェンの扁平面が2種類のアルコールの混合液と接している。いっぽう、2種類のアルコールの混合液は、密度が0.82g/cm
3
より小さく、20℃における粘度が4-6mPa・秒と比較的低いため、容器に振動加速度を加えると、2種類のアルコールの混合液は、振動加速度の方向に移動する。この2種類のアルコールの混合液の移動に伴って、グラフェンが移動する。いっぽう、アスペクト比が極めて大きいグラフェンは、扁平面を上にして液体中を移動するのが最もグラフェンに負荷が加わらないため、グラフェンは扁平面を上にして2種類のアルコールの混合液中を振動方向に移動する。従って、3方向の振動加速度が繰り返し加わると、グラフェンの扁平面同士が2種類のアルコールの混合液を介して重なり合ったグラフェンの集まりになる。なお、2種類のアルコールの混合液を介してグラフェンの扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりに負荷が加わっても、グラフェンのアスペクト比が極めて大きいため、グラフェンの扁平面同士が重なり合った状態を保つ。
第三の工程で、懸濁液からなるシートを連続して成形する。このため、製造するグラフェンフィルムの幅と、製造するグラフェンフィルムの厚みの10-20倍の間隙を有するTダイのリップを持つ押出成形機を予め用意する。次に、懸濁液を押出成形機のホッパーに連続して充填し、さらに、押出成形機のスクリューを連続して作動させ、ホッパーに充填された懸濁液を、押出成形機のTダイに連続して押出す。Tダイに入り込んだ懸濁液は、スクリューの動きによって、Tダイのマニホールドを通過した後に、Tダイのリップから、グラフェンフィルムの幅と、グラフェンフィルムの厚みの10-20倍の厚みからなるシート状の懸濁液として連続して押し出される。なお、押し出されたシート状の懸濁液は、厚みがサブミクロンと薄く、また、2種類のアルコールの混合液は、密度が0.82g/cm
3
より小さく、かつ、20℃における粘度が4-6mPa・秒を持つ。このため、押し出されたシート状の懸濁液は軽量で、かつ、4-6mPa・秒の粘度を持ち、押し出される速度が遅いため、2種類のアルコールの混合液が持つ粘度に基づく吸着力がシート状の懸濁液に作用し、押し出されたシート状の懸濁液は、移動の際に破断しない。いっぽう、製造するグラフェンフィルムの幅は、用途に応じて20-200cmの大きな幅を持つ。このため、製造するグラフェンフィルムの幅が広いほど、押し出されたシート状の懸濁液の重量は大きい。従って、製造するグラフェンフィルムの幅が広いほど、Tダイのリップの間隙を狭め、押し出されたシート状の懸濁液の重量増加を抑える。
つまり、前記したように、懸濁液において、2種類のアルコールの混合液の重量は、黒鉛粒子の重量の20倍を優に超える。このため、Tダイのリップの間隙を、製造するグラフェンフィルムの厚みの10-20倍の間隙とし、Tダイのリップから懸濁液を押し出す際に、多すぎる2種類のアルコールの混合液の一部を、懸濁液から滲み出させ、押し出されたシート状の懸濁液の厚みを、製造するグラフェンフィルムの厚みの10-20倍の厚みとした。さらに、押し出されたシート状の懸濁液を、1回転に要する時間が10秒より長い周速度で回転する第一の巻き取り機で連続して巻き取る。これによって、7段落に記載した第四の課題が解決される。なお、滲み出た2種類のアルコールの混合液は、回収し再利用する。
第四の工程で、シート状に成形された懸濁液を、少なくなった第二のアルコールを介して扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりからなるシート状の新たな懸濁液にする。このため、第一に、製造するグラフェンフィルムの幅より広い同じ幅を持ち、第二に、直径が製造するグラフェンフィルムの幅の1/10より小さい同じ大きさの直径を持ち、第三に、製造するグラフェンフィルムの5倍の厚みとして間隙が設定され、第四に、第一の巻き取り機と同じ周速度で互いに反対方向に回転し、第五に、第一のアルコールの沸点より10℃高い温度に昇温された5つの特徴を有する2つのワークロールを持つ多段圧延機を、第一の多段圧延機として予め用意する。次に、2つのワークロールの間隙に、第三の工程で巻き取ったシート状の懸濁液の先端を挿入し、シート状の懸濁液を、2つのワークロールの間隙で連続して圧縮する。最初に、第一のアルコールがシート状の懸濁液から気化し、シート状の懸濁液は、第二のアルコールを介して扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりからなるシート状の懸濁液になる。次に、2つのワークロールの間隙で、シート状の懸濁液が継続して圧縮される。この際に、過剰な第二のアルコールがシート状の懸濁液から滲み出て、シート状の懸濁液の表面に移動し、シート状の懸濁液が、少なくなった第二のアルコールを介して扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりからなるシート状の新たな懸濁液になる。このシート状の新たな懸濁液が、2つのワークロールの間隙から、連続して排出される。これによって、7段落に記載した第五の課題が解決される。
なお、2つのワークロールの幅が製造するグラフェンフィルムの幅より広いが、2つのワークロールの直径がグラフェンフィルムの幅の1/10より小さいため、2つのワークロールを互いに反対方向に回転させた際に、2つのワークロールが弾性変形する。この2つのワークロールの弾性変形を、他のバクアップロールの回転で抑えるため、多段圧延機を用いた。これによって、2つのワークロールの間隙において、シート状の懸濁液に、継続して一定の圧縮応力が加わる。なお、多段圧延機としては、例えば12段圧延機がある。さらに、2つのワークロールの回転速度が、1回転に要する時間が10秒より長い周速度であり、また、2つのワークロールの直径がグラフェンフィルムの幅の1/10より小さいため、2つのワークロールとシート状の懸濁液との接触時間が確保できる。このため、2つのワークロールの間隙で、シート状の懸濁液が圧縮されると、少なくなった第二のアルコールを介して扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりからなるシート状の新たな懸濁液が、2つのワークロールの間隙から、連続して排出される。
第五の工程で、2つのワークロールの間隙で、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合って接合したグラフェンフィルムを連続して形成し、グラフェンフィルムを2つのワークロールの間隙から連続して排出し、排出されたグラフェンフィルムを、第一の巻き取り機と同じ周速度で回転する第二の巻き取り機で連続して巻き取る。このため、第一に、第一の多段圧延機の2つのワークロールと同じ幅と同じ直径とを持ち、第二に、第一の多段圧延機の2つのワークロールと同じ周速度で互いに反対方向に回転し、第三に、製造するグラフェンフィルムの厚みとして間隙が設定され、第四に、第二のアルコールの沸点より10℃高い温度に昇温された4つの特徴を有する2つのワークロールを持つ多段圧延機を、第二の多段圧延機として予め用意する。次に、2つのワークロールの間隙に、第四の工程で作成したシートの先端を挿入し、該シートを、2つのワークロールの間隙で連続して圧縮する。なお、2つのワークロールの回転速度が、1回転に要する時間が10秒より長い周速度であり、また、2つのワークロールの直径がグラフェンフィルムの幅の1/10より小さいため、2つのワークロールとシートとの接触時間が確保できる。最初に、第二のアルコールがシートから気化し、シートが、扁平面同士が直接重なり合ったグラフェンの集まりになる。次に、2つのワークロールの間隙で、扁平面同士が直接重なり合ったグラフェンの集まりが継続して圧縮され、扁平面同士が直接重なり合った扁平面に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって直接重なり合った扁平面同士が接合し、扁平面同士が直接重なり合って接合したグラフェンの集まりからなるグラフェンフィルムが形成され、該グラフェンフィルムが2つのワークロールの間隙から連続して排出される。さらに、排出されたグラフェンフィルムを、第一の巻き取り機と同じ周速度で回転する第二の巻き取り機で連続して巻き取る。これによって、7段落に記載した第六の課題が解決される。
なお、Tダイのリップから押し出されたシートを巻き取る第一の巻き取り機の周速度と、第一の多段圧延機の2つのワークロールが回転する周速度と、第二の多段圧延機の2つのワークロールが回転する周速度と、2つのワークロールの間隙から排出されたグラフェンフィルムを巻き取る第二の巻き取り機の周速度とが、同一の周速度であるため、グラフェンフィルムが連続して製造される。
つまり、グラフェンは、破断強度が42N/mであり、鋼の100倍以上の強度を持つ。このため、2つのワークロールの間隙で、扁平面同士が直接重なり合ったグラフェンの集まりを継続して圧縮しても、グラフェンの扁平面は変形も破壊もしない。従って、加えられた圧縮応力が低減することなく、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合った扁平面に圧縮応力が加わる。これによって、直接重なり合った扁平面に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって扁平面同士が直接接合し、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンフィルムが形成される。なお、グラフェンは、前記したように、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。また、グラフェンは、アスペクト比が極めて大きく、質量を殆ど持たない。このグラフェンの扁平面同士を直接摩擦熱で接合したため、扁平面同士は強固に接合する。
上記した5つの工程における全ての処理が極めて簡単な処理である。また、用いる黒鉛粒子は汎用的な工業用素材であり、2種類のアルコールは汎用的な有機化合物である。また、超音波方式のホモジナイザー装置と押出成形機と多段圧延機は、汎用的な処理装置である。このため、安価な黒鉛粒子の集まりを用いて、安価な製造方法でグラフェンの集まりを製造でき、さらに、安価な方法でグラフェンフィルムが製造できる。この結果、安価なグラフェンフィルムが製造できる。これによって、7段落に記載した第七の課題が解決される。この結果、7段落に記載した全ての課題が解決される。
以上に説明した製造方法で製造したグラフェンフィルムは、次の作用効果をもたらす。
第一に、グラフェンは、厚みが炭素原子の大きさに相当する0.332nmで、極めて軽量で、殆ど質量を持たず、透明性に優れている。このため、グラフェンの存在は、目視では確認できない。このため、1枚1枚のグラフェンを取り扱うことは困難である。これに対し、扁平面を介してグラフェン同士を直接接合したグラフェンフィルムは、一定の面積と一定の厚みを持つため、グラフェンフィルムとして取り扱うことができる。
第二に、グラフェンフィルムは、グラフェンの扁平面同士が直接接合したため、グラフェンの扁平面の性質を持つ。いっぽう、グラフェンは厚みが極めて薄い2次元層状物質であるため、グラフェンの扁平面の性質が、グラフェンの性質になる。従って、グラフェンフィルムは、3段落に記載したグラフェンの様々な性質を持つ。さらに、グラフェンフィルムは、安価な材料を用い、安価な方法で製造できる安価な工業用素材になる。このため、グラフェンフィルムを用いた様々な工業製品への応用が開拓される。
第三に、押出成形機のTダイのリップに近い形状からなるシート状の懸濁液を連続して成形し、さらに、シート状の懸濁液を、多段圧延機の2つのワークロールの間隙で連続して圧縮することで、2つのワークロールの間隙からなる厚みを持つグラフェンフィルムが製造できる。このため、予め決めたTダイのリップの形状と、2つのワークロールの間隙に応じた形状と厚みとからなるグラフェンフィルムが連続して製造できる。つまり、製造するグラフェンフィルムの幅と厚みとが、予め設定できる。
第四に、グラフェンフィルムの厚みはナノサイズと薄い。いっぽう、グラフェンは、せん断弾性率が440GPaという大きな数値を持つが、グラフェンフィルムの厚みがナノサイズと薄いため、グラフェンフィルムが切断できる。このため、グラフェンフィルムを、面積が小さい電極や接点、細長い配線パターン、面積が広い導電性シートや熱伝導シートに至るまで、任意の大きさと形状とを持つグラフェンフィルムに、自在に加工ができる。
第五に、グラフェンフィルムは、不純物がなく、黒鉛結晶の基底面のみからなる真性な物質であるグラフェンについて、アスペクト比が極めて大きく極めて軽量の扁平面同士を直接摩擦熱で接合したため、扁平面同士が強固に接合される。また、扁平面同士が接合されたグラフェンフィルム表面の段差は、グラフェンの厚みに相当する0.332nmである。このため、グラフェンフィルムの表面は、摩擦抵抗が小さい摺動面を形成する。さらに、グラフェンフィルムは、融点が3000℃を超えるグラフェンのみで構成されるため、グラフェンフィルムはグラフェンの耐熱性を持つ。従って、グラフェンフィルムは、どのような過酷な環境で使用されても経時変化しない。
以上に説明したように、グラフェンの性質からなるグラフェンフィルムは、様々な作用効果を発揮するため、様々な分野の工業用素材として用いられる。
【0010】
8段落に記載したグラフェンフィルムを連続して製造する方法は、
8段落に記載した第一のアルコールが、エタノールないしは1-プロパノールのいずれかのアルコールであり、該アルコールを8段落に記載した第一のアルコールとして用い、8段落に記載した5つの工程からなる全ての処理を連続して実施する方法が、
8段落に記載したグラフェンフィルムを連続して製造する方法。
(【0011】以降は省略されています)
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