発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、シアリル糖ペプチドを含む記憶・学習能維持および/または向上用組成物、及び該組成物を含む記憶・学習能維持および/または向上用飲食品、医薬品及び飼料に関する。 続きを表示(約 4,700 文字)【背景技術】 【0002】 超高齢社会を迎え、加齢に伴う認知機能の低下や認知症は大きな社会課題となっている。認知症に対する治療薬の開発が進められているが、未だ根本的な治療の実現には至っていない。また現代社会では一日に膨大な情報を処理しなければならず、物忘れや記憶力の低下は高齢者だけの問題ではなくなっている。記憶機能の低下は、心理ストレスや不眠や栄養不足など様々な要因で起きており、労働者の生産性を低下させ、多大な経済損失につながっている。したがって常用可能な医薬品の開発と併せて、食品への添加が可能で日々の食生活を通じて継続的に摂取することができる安全性の高い剤の開発が望まれている。 【0003】 母乳や牛乳に含まれるオリゴ糖、糖タンパク質糖鎖、および糖脂質には、「シアル酸」と呼ばれる酸性糖が多く含まれている。乳のシアル酸は、脳ガングリオシドやポリシアル酸修飾された神経細胞接着分子の構成分子であり、乳児の脳神経の発達に重要な役割を担っている。例えば、遊離のシアル酸(N-アセチルノイラミン酸)を摂取させた母ラットの乳で成長した仔ラットでは、生育後の空間作業記憶が向上することが報告されている(非特許文献1:J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2013;59(2):136-43)。また、仔豚にカゼイングリコマクロペプチド(GMP/CGMP)結合性のシアル酸の添加量を増やした母豚の代用乳を35日間与えると、仔豚の学習が促進され、学習に関連する2つの遺伝子の発現が増加することが報告されている(非特許文献2:Am J Clin Nutr. 2007 Feb;85(2):561-9)。 このように、遊離シアル酸やシアル酸部分を含有するGMPを摂取することで、脳・神経系の機能を向上させることが期待されている。 【0004】 多くのシアル酸は糖鎖の非還元末端に結合しており、結合する糖鎖の種類や結合様式は多様である。オリゴ糖や糖タンパク質、糖脂質に含まれるガラクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミンなどの3位や6位にシアル酸は結合するが、シアル酸がα2-8結合で重合したポリシアル酸としても存在する。さらにシアリル糖鎖が結合するタンパク質や脂質の種類も多様である。したがって、組成物中でのシアル酸の存在形態によって、シアル酸が有する生理機能の強度は異なる可能性がある。実際、シアル酸が乳糖に結合したシアリルラクトースを仔豚に摂取させても、仔豚の認知機能の向上は認められなかった、という報告もある(非特許文献3:Nutrients. 2018 Mar 23;10(4):395)。このように、遊離シアル酸やシアル酸部分含有するGMPの摂取による脳・神経系の機能向上には、組成物に含まれるシアル酸の量だけではなく、その化学的な結合形態も重要と考えられる。そして、同じ量のシアル酸を摂取するのであれば、より高い脳・神経系の機能を向上させる効果が得られる形態のシアル酸部分含有化合物を摂取することが効率的であると考えられる。したがって、遊離シアル酸やシアル酸部分を含有するGMPの脳・神経系機能の向上効果を上回るシアル酸部分含有化合物を乳から見出すことができれば、それを含む組成物は従来にはない乳由来の脳・神経系の機能向上組成物となる。 【0005】 線虫Caenorhabditis elegans(以下、C. elegansとする)は、302個のニューロンからなるシンプルな神経回路を用いて、様々な外部刺激を感知し、多様な応答行動をとることができる。線虫は餌と化学物質を関連付けて記憶する連合学習が可能であり、複数の刺激の条件付け後の行動や神経機能の可塑性を反映した記憶・認知機能を解析するための優れたモデル系であることが知られる。神経回路レベルでは、神経細胞の応答特性とシナプス伝達の程度の経時的な変化によって説明される。 【0006】 線虫と哺乳動物は進化系統上離れているものの、細胞レベルの分子機構は共通する部分が大きい。哺乳動物において記憶に関わることが知られている分子が線虫の化学走性にも関与することが報告されている。例えば、哺乳類で記憶に関わる因子CREB(線虫ではCRH-1)は、線虫の連合学習による記憶の獲得維持に関与すること(非特許文献4:EMBO Rep., 12, 855-862 (2011))、哺乳類で記憶に関わる脳内伝達物質であるセロトニンは、線虫の化学走性を制御していること(非特許文献5:PNAS 99, 19 p12449-12454 (2002))、哺乳類で記憶に関わる因子カルシニューリン(線虫ではRCAN-1)は、線虫の温度走性行動に関わること(非特許文献6:J. Mol. Biol., 427, 3457-3468 (2015))などが報告されている。 【0007】 更に、線虫で神経系に対する有効性が認められる成分が、哺乳動物においても脳・神経系に対する効果を示す事例が報告されている。即ち、経口摂取したαリポ酸は、加齢で低下した線虫及び哺乳動物の連合学習行動を改善すること(非特許文献7:Neurobiol. Aging., 26, 899-905 (2005), 非特許文献8:J. Med. Food. 15, 713-7 (2012))、経口摂取したクルクミンは、線虫及び哺乳動物において、加齢に伴う認知障害を改善すること(非特許文献9:Neurobiol. Aging., 39, 69-81 (2016), 非特許文献10:Geroscience., 40, 73-95 (2018))などが報告されている。 【0008】 これらのことから、C. elegansの化学走性は記憶の分子機構を解析することに適したモデル系と考えられている。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0009】 Seiichi Hiratsuka, Hiroyuki Honma, Yoichi Saitoh, Yuki Yasuda, Hidehiko Yokogoshi.: Effects of dietary sialic acid in n-3 fatty acid-deficient dams during pregnancy and lactation on the learning abilities of their pups after weaning. J Nutr Sci Vitaminol. 59(2):136-43 (2013). Bing Wang, Bing Yu, Muhsin Karim, Honghua Hu, Yun Sun, Paul McGreevy, Peter Petocz, Suzanne Held, Jennie Brand-Miller.: Dietary sialic acid supplementation improves learning and memory in piglets. Am J Clin Nutr Feb;85(2):561-9 (2007) Stephen A. Fleming, Maciej Chichlowski, Brian M. Berg, Sharon M. Donovan and Ryan N. Dilger.: Dietary Sialyllactose Does Not Influence Measures of Recognition Memory or Diurnal Activity in the Young Pig. Nutrients Volume 10 Issue 4 (2018) Nishida, Y., Sugi, T., Nonomura, M. et al.: Identification of the AFD neuron as the site of action of the CREB protein in Caenorhabditis elegans thermotaxis. EMBO Rep., 12, 855-862 (2011) William M. Nuttley, Karen P. Atkinson-Leadbeater, and Derek van der Kooy., Serotonin mediates food-odor associative learning in the nematode Caenorhabditis elegans. PNAS vol. 99 no. 19 12449-12454, September 17, 2002 Li, W., Bell, H. W., Ahnn, J., Lee, S. K.: Regulator of Calcineurin (RCAN-1) Regulates Thermotaxis Behavior in Caenorhabditis elegans. J. Mol. Biol., 427, 3457-3468 (2015) Murakami, S., Murakami, H.: The effects of aging and oxidative stress on learning behavior in C. elegans. Neurobiol. Aging., 26, 899-905 (2005) Cui, Y., Shu, Y., Zhu, Y., Shi, Y., Le, G.: High-fat diets impair spatial learning of mice in the Y-maze paradigm: ameliorative potential of α-lipoic acid. J. Med. Food. 15, 713-7 (2012) Miyasaka, T., Xie, C., Yoshimura, S., et al. Curcumin improves tau-induced neuronal dysfunction of nematodes. Neurobiol. Aging., 39, 69-81 (2016) Sarker, M. R., Franks, S. F. Efficacy of curcumin for age-associated cognitive decline: a narrative review of preclinical and clinical studies. Geroscience. 40, 73-95 (2018) 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明の課題は、従来にない新たな記憶・学習能維持および/または向上用組成物、及び該組成物を含む記憶・学習能維持および/または向上用飲食品、医薬品及び飼料を提供することである。 【課題を解決するための手段】 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPat(特許庁公式サイト)で参照する