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公開番号2025148560
公報種別公開特許公報(A)
公開日2025-10-07
出願番号2025121030,2021571225
出願日2025-07-18,2021-01-14
発明の名称進行性核上性麻痺の治療
出願人国立大学法人東海国立大学機構
代理人弁理士法人三枝国際特許事務所
主分類A61K 45/00 20060101AFI20250930BHJP(医学または獣医学;衛生学)
要約【課題】進行性核上性麻痺の原因遺伝子を同定し、有効な治療法・治療薬を創出することを課題とする。また、治療法・治療薬の開発に有用な手段を提供することも課題とする。
【解決手段】当該課題の解決のため、フィラミンA遺伝子の発現を抑制する化合物を含有する、進行性核上性麻痺治療薬が提供される。また、進行性核上性麻痺の治療薬又はその候補の探索等に利用される、フィラミンAを発現する細胞を用いた評価系等が提供される。
【選択図】なし
特許請求の範囲【請求項1】
本願明細書に記載の発明。

発明の詳細な説明【技術分野】
【0001】
本発明は進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)の治療に関する。詳しくは、PSPの治療薬及びその探索手段(薬剤評価系)等に関する。
続きを表示(約 13,000 文字)【背景技術】
【0002】
PSPは、神経細胞とアストログリア等のグリア細胞にタウ蛋白が異常に凝集することを病理学的特徴とする神経変性疾患である。PSPの臨床症状は、古典的Richardson症候群やパーキンソン症候群などの運動症状を主体とする症例から、前頭側頭型認知症などの精神症状を主体とする症例まで症例毎に多様である(非特許文献1)。PSPの根本的治療は皆無であるため、全ての患者は症状が進行し、その多くは発症後5から10年で死亡する(非特許文献1、2)。またPSPの運動症状や精神症状は、家族に対し大きな介護負担を課し、解決すべき社会的問題である(非特許文献3)。ヒトのタウ蛋白は、微小管結合領域の繰り返し数の違いにより、3リピートタウ蛋白(3R-tau)と4リピートタウ蛋白(4R-tau)の2つのアイソフォームに大別される。凝集したタウ蛋白は、その毒性により細胞死を誘発する。タウ蛋白の凝集を認める疾患をタウオパチーと総称し、PSPやアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)など複数の疾患が含まれる。ADが3R-tauと4R-tauの両者が凝集するのに対し、PSPは4R-tau優位に凝集する。PSPの病変分布はアルツハイマー病と異なり、大脳基底核、中脳被蓋、前頭葉を主体とし、渦巻き型の神経原性変化(globose-type neurofibrillary tangle:globose-type NFT)や房状アストログリア(tufted astroglia:TA)はPSPに特徴的な4R-tauの凝集形態である(非特許文献1、4)。これまでfused in sarcoma(FUS)とsplicing factor proline- and glutamine-rich(SFPQ)のRNA蛋白の相互作用が3R-tauと4R-tauのバランスを制御し、その破綻がタウオパチーの病態に関与することが知られている(非特許文献5)。しかし、タウ蛋白が凝集する病態機序は未だ不明であり、またPSPのモデル動物は確立されていない。
【0003】
PSPは一般に孤発性であるが、ごく稀に家族集積する(非特許文献1、6)。一部の家族性PSPは、タウ蛋白をコードするMAPT遺伝子に変異を認め、その変異タウ蛋白は高い凝集能をもつ(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
Boxer AL, Yu JT, Golbe LI, Litvan I, Lang AE, Hoglinger GU. Advances in progressive supranuclear palsy: new diagnostic criteria, biomarkers, and therapeutic approaches. Lancet Neurol 2017; 16: 552-63.
Glasmacher SA, Leigh PN, Saha RA. Predictors of survival in progressive supranuclear palsy and multiple system atrophy: a systematic review and meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2017; 88: 402-11.
Uttl B, Santacruz P, Litvan I, Grafman J. Caregiving in progressive supranuclear palsy. Neurology 1998; 51: 1303-1309.
Yoshida M. Astrocytic inclusions in progressive supranuclear palsy and corticobasal degeneration. Neuropathology 2014; 34: 555-70.
Ishigaki S, Fujioka Y, Okada Y, Riku Y, Udagawa T, Honda D et al. Altered Tau Isoform Ratio Caused by Loss of FUS and SFPQ Function Leads to FTLD-like Phenotypes. Cell Rep 2017; 18: 1118-31.
Fujioka S, Algom AA, Murray ME, Strongosky A, Soto-Ortolaza AI, Rademakers R et al. Similarities between familial and sporadic autopsy-proven progressive supranuclear palsy. Neurology 2013; 80: 2076-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MAPT遺伝子に変異を認めない家族性PSP家系も存在することから、MAPT遺伝子以外にタウ蛋白の凝集に影響を与える遺伝的要因が存在し得る可能性がある。PSPは原因が不明であり、効果的な治療法・治療薬が存在しない。そこで本発明は、このような現状を打破すべく、PSPの原因遺伝子を同定し、有効な治療法・治療薬を創出することを課題とする。また、治療法・治療薬の開発に有用な手段を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく検討した結果、PSP患者の神経病理解析及びDNAマイクロアレイ解析等によって、フィラミンA(Filamin-A:FLNA)が原因遺伝子の候補として同定された。更に検討を進めたところ、フィラミンAがPSPの発症や病態形成に関与し、治療標的になることを裏付けるエビデンスが得られるとともに、フィラミンA遺伝子の発現抑制が治療効果を発揮し得ること等が判明した。当該成果に基づき、以下の発明が主に提供される。
[1]フィラミンA遺伝子の発現を抑制する化合物を含有する、進行性核上性麻痺治療薬。
[1A]フィラミンA遺伝子の発現を抑制する化合物を含有する、4リピートタウの発現抑制剤。
[1B]フィラミンA遺伝子の発現を抑制する化合物を含有する、リン酸化4リピートタウ抑制剤。
[1C]フィラミンA遺伝子の発現を抑制する化合物を含有する、4リピートタウの凝集抑制剤。
[2]前記化合物が以下の(a)~(e)からなる群より選択される化合物である、[1]に記載の進行性核上性麻痺治療薬:
(a)フィラミンA遺伝子を標的とするsiRNA;
(b)フィラミンA遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト;
(c)フィラミンA遺伝子の発現を抑制する発現抑制配列と該配列にアニーリングする相補配列を有する一本鎖RNA;
(d)フィラミンA遺伝子の転写産物を標的とするアンチセンス核酸;
(e)フィラミンA遺伝子の転写産物を標的とするリボザイム。
[2A]神経細胞及び/又はグリア細胞においてフィラミンA及び/又は4リピートタウの発現が亢進している対象に投与されることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の進行性核上性麻痺治療薬。
[2B]神経細胞及び/又はグリア細胞において3リピートタウよりも4リピートタウが過剰に発現している対象に投与されることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の進行性核上性麻痺治療薬。
[3][1]又は[2]に記載の進行性核上性麻痺治療薬を、対象に投与するステップを含む、対象における進行性核上性麻痺治療法。
[3A]前記対象が、神経細胞及び/又はグリア細胞においてフィラミンA及び/又は4リピートタウの発現が亢進している対象である、[3]に記載の進行性核上性麻痺治療法。
[3B]前記対象が、神経細胞及び/又はグリア細胞において3リピートタウよりも4リピートタウが過剰に発現している対象である、[3]に記載の進行性核上性麻痺治療法。
[4]以下のステップ(i)及び(ii)を含む、進行性核上性麻痺に対する被験物質の有効性を評価する方法:
(i)フィラミンAを発現する細胞に被験物質を接触させるステップ;
(ii)前記細胞における、フィラミンAの発現、4リピートタウの量、及び/又はリン酸化タウの量を検出し、検出結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップであって、フィラミンAの発現低下、4リピートタウ量の低下、及び/又はリン酸化タウ量の低下が、被験物質が有効であることの指標となるステップ。
[5]前記細胞が、進行性核上性麻痺患者由来のリンパ球細胞株である、[4]に記載の評価方法。
[6]フィラミンAの発現が亢進していることを特徴とする、進行性核上性麻痺患者由来のリンパ球細胞株。
[7]フィラミンA遺伝子の導入によってフィラミンAを高発現し、進行性核上性麻痺様の病態を呈する非ヒト哺乳動物。
[8]トランスジェニック動物である、[7]に記載の非ヒト哺乳動物。
[9]進行性核上性麻痺様の病態が、神経細胞及び/又はグリア細胞における、4リピートタウの増加及び/又はリン酸化タウの増加である、[7]又は[8]に記載の非ヒト哺乳動物。
[10]前記非ヒト哺乳動物の種(属)が、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ及びサルからなる群より選択されるいずれかである、[7]~[9]のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物。
[11]前記非ヒト哺乳動物の種(属)がマウスである、[7]~[9]のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物。
[12]フィラミンAを含む、進行性核上性麻痺のバイオマーカー。
【図面の簡単な説明】
【0007】
PSPを同時発症した日本人一卵性双生児ペア。(a)家系図は非発症者(白)とPSP発症の一卵性双生児(黒、Twin-A及びTwin-B)を示す。丸は女性、四角は男性を示す。マイクロサテライトマーカーのハプロタイプが12箇所全て完全に一致し、Twin-AとTwin-Bが一卵性双生児の関係であることに矛盾しない。(b~n)Twin-AとTwin-Bの神経病理所見はPSPに矛盾しない。Twin-Bの前頭葉は萎縮していた(b)。冠状断では、淡蒼球内節(c、矢印)と視床下核(c、矢じり)が萎縮していた。中脳では被蓋部が萎縮し、黒質は褐色調であった(d、矢印)。顕微鏡学的所見として、低倍率ではTwin-Bの淡蒼球において、4リピートタウ特異的抗体RD4陽性(e)かつ3リピートタウ特異的抗体RD3陽性(f)の凝集物を示す。Twin-A(g~j)とTwin-B(k~n)の高倍率を示す。PSPに特徴的なTA(g~i、k~m)とglobose-type NFT(j~n)を示す。スケールバーは、10 mm(c、d)、20 μm(e、f)、10 μm(g~n)。写真はGallyas-Braak(G-B)染色(g、k)、RD4抗体染色(e、i、j、m、n)、RD3抗体染色(f)、AT8抗体染色(h、l)を示す。
PSP同時発症の一卵性双生児にFLNA遺伝子重複が同定される。(a)eXome Hidden Markov Model(XHMM)を用いた全エクソーム解析または染色体マイクロアレイが、Twin-A、Twin-B、非発症同胞女性(II-3)がXq28に約0.3 Mbのコピー数増加領域を保有することを示す。最上段は、Twin-AのXHMM。縦軸はZスコアを示す。他は、Twin-A、Twin-B、非発症同胞(II-1、II-2、II-3)のマイクロアレイ。縦軸はlog2比を示す。(b)Twin-Aのマイクロアレイで認めたコピー数増加領域の拡大図。(a)の点線四角内部を示す。図にはlow copy repeat(LCR)とコード遺伝子の位置を示している。コピー数増加領域には16のコード遺伝子が含まれ、LCRで階段状にコピー数が変化する。マイクロアレイにより算出されたコピー数をプロットしており、FLNA遺伝子は2コピーに重複していた。(c)FRAXA遺伝子のメチル化領域を用いたX染色体不活化(X chromosome inactivation:XCI)解析では、非発症同胞女性(II-3)はmarkedly skewed pattern(XCI ratio = 93: 7)であった。(d)Twin-A、Twin-B、非発症同胞女性(II-3)の不死化リンパ球由来のcDNAを用いたリアルタイム定量PCR法。FLNA遺伝子含めコピー数増加領域内の遺伝子のmRNA発現量はTwin-AとTwin-Bでは増加していたが、II-3では増加していなかった。数値はハウスキーピング遺伝子GUSBにより標準化し、II-1を対照例とした相対値である。
Filamin-Aは4R-tauの凝集を促進する。(a)剖検脳の前頭葉を用いたウエスタンブロット。Xq28のコピー数増加領域内の16のコード遺伝子のうち、5つの遺伝子(†;Filamin-A (FLNA)、RPL10、GDI1、FAM3A、G6PD)は、Twin-AとTwin-Bの両者が健常対照群(Normal-1~5)の中間値+標準偏差より高値であった。GAPDHをローディング・コントロールとして用いた。
図3の続き。(b)前述の5つの遺伝子のうちFilamin-Aは、HEK293細胞にGFPタグ付きの4R-tau(GFP-4R-tau)と共発現させると、対照とするempty発現時と比較し統計的有意にGFP-4R-tauの発現量を増加した(P<0.001、n=5)。Tukey-Kramer検定を行った。***はP<0.001を示す。エラーバーは、標準誤差を示す。
図3の続き。(c)不死化リンパ球のウエスタンブロットを示す。Twin-AとTwin-Bは、非発症の同胞(II-1、II-2、II-3)と比較し、Filamin-Aと内在性タウ蛋白の発現量が増加していた。ここでのタウ蛋白はプロテインホスファターゼにより脱リン酸化処理され、TAU-5抗体により解析した。(d)Filamin-Aの発現を抑制する3種類のsiRNAを使用してウエスタンブロットを行うと、Twin-Aの不死化リンパ球は、Filamin-Aだけでなく内在性の4R-tau蛋白の発現量も低下した。RD4抗体を使用した。Tukey-Kramer検定を行った。***はP<0.001、*はP<0.05を各々示す。エラーバーは、標準誤差を示す。
図3の続き。(e)Filamin-AとGFP-4R-tauを発現させたHEK293細胞から抽出したTBS可溶性画分(S1)のウエスタンブロット。リン酸化タウ抗体AT8(Ser202/Thr205)とPHF-1(Ser396/Ser404)を用いたところ、Filamin-A発現によりGFP-4R-tauのリン酸化亢進を認めた。(f)シクロヘキシミド(cycloheximide:CHX)追跡実験では、Filamin-A発現によりGFP-4R-tauの蛋白安定化を認めた(n=3)。Filamin-AとGFP-4R-tauを発現させたHEK293細胞にCHX投与し、図示した時間に蛋白を収集した(n=3)。
図3の続き。(g)Filamin-AとGFP-4R-tauを発現させたHEK293細胞のホモジネート(Ho)、TBS可溶性画分(S1)、サルコシル不溶性画分(P3)を用いて実施したウエスタンブロット。この実験では図示した様々な用量でFilamin-Aのプラスミドをトランスフェクションした。Hoにおいて、Filamin-Aの発現量依存的にGFP-4R-tauの発現量は増加した(n=3)。S1とP3において、Filamin-Aの最大発現時にGFP-4R-tauの発現量は統計学的有意に上昇した(S1とP3ともにP<0.05)。矢印はGFP-4R-tau、矢じりは内因性タウを示す。
図3の続き。(h)TAU-5抗体を用いた共免疫沈降。Filamin-AとGFP-4R-tauを発現させたHEK293細胞において、GFP-4R-tauと共にFilamin-A、熱ショック蛋白HSP90、HSP70、HSP40、ユビキチンが免疫沈降された。
Filamin-AはPSP剖検脳において凝集したタウと共局在し、初代アストログリアにおいて実験的に過剰なFilamin-Aはタウ凝集を誘導する。(a)34症例の前頭葉を用いたウエスタンブロット。TBS可溶性画分(S1)とサルコシル不溶性画分(P3)ともに、PSPは健常対照群やPSP以外の神経変性疾患に比べて統計学的有意にFilamin-A発現量は増加していた(S1はP<0.01、P3はP<0.05)。GAPDHをローディング・コントロールとして用いた。点線はメンブレンの境界を示す。S1のパラメトリックデータにはTukey-Kramer検定を行い、P3のノンパラメトリックデータにはSteel-Dwass検定を行った。
図4の続き。(b)11症例のPSP剖検脳(Twin-A、Twin-B、9症例の孤発性PSP)のP3において、Filamin-A発現量は4R-tauの発現量と正の相関関係を示した。相関関係はPearson積率相関係数の無相関検定で評価した。
図4の続き。(c~e)Twin-B(c)、PSP-6(d)、PSP-9(e)の前頭葉の蛍光免疫染色。Filamin-A(オリジナルイメージでは赤で示される)とリン酸化タウAT8(オリジナルイメージでは緑で示される)は、TAやNFTにおいて共局在していた。スケールバーは5 μm。
図4の続き。(f)Filamin-A(オリジナルイメージでは赤で示される)とGFP-4R-tau(オリジナルイメージでは緑で示される)を共発現したラット初代アストログリアの蛍光免疫染色。Filamin-Aの発現時はアストログリアの細胞体と突起近位部にGFP-4R-tauが凝集した。低倍率写真の点線四角内は、隣りに高倍率写真を掲載した。矢印は凝集したGFP-4R-tauを指す。スケールバーは5 μm。
図4の続き。(g)初代アストログリアのウエスタンブロットでは、Filamin-Aの発現時にGFP-4R-tauの発現量が統計学的有意に増加した(P<0.01、n=3)。矢じりは非特異的バンドを指す。Student t検定を行った。**はP<0.01、*はP<0.05を各々示す。エラーバーは、標準誤差を示す。
Twin-Bの異所性灰白質。Twin-Bは右側脳室前角(白色の点線四角内部、a、b)と小脳(黒色の実線四角内部、c)に異所性灰白質を認めた。スケールバーは、10 mm(a)、500 μm(b)、1 mm(c)。顕微鏡写真はKluver-Barerra染色(b、c)。
Twin-Aの神経放射線画像。(a~d)Twin-Aの66歳時の脳MRI。T2強調画像の水平断では前頭葉と側頭葉を主体に脳萎縮を認めた(a~c)。T1強調画像の矢状断では中脳の萎縮を認めた(d、矢印)。(e~g)Twin-Aの66歳時の
99m
Tc-ECD脳血流SEPCT画像。前頭葉と側頭葉に血流低下を認めた。Rtは右側を示す。
Twin-Aの神経病理学的所見。大脳、小脳、脳幹と全体に萎縮していた(a、b)。冠状断では淡蒼球内節(c、矢印)と視床下核(c、矢じり)が萎縮していた。中脳では被蓋部が萎縮し、黒質は褐色調であった(d、矢印)。顕微鏡学的所見として、視床下核(e)、淡蒼球内節(f)、中脳被蓋部(g)、中脳黒質(h)において、神経脱落とグリオーシスを認めた。中脳黒質にglobose-type NFT(i)を認めた。スケールバーは、5 mm(c)、10 mm(d)、50 μm(e~g)、100 μm(h)、5 μm(i)。写真はヘマトキシリン・エオジン染色(e~i)を示す。
Twin-Aと健常日本人男性のXHMMを用いた全エクソーム解析。XHMMデータからXq28染色体領域のZスコアを抽出してグラフ化した。Twin-Aに認めたFLNA遺伝子を含めたコピー数異常は513名の健常日本人男性には認めなかった。
リアルタイム定量PCR法によるコピー数解析。(a)Twin-Aの染色体マイクロアレイの結果とリアルタイム定量PCR法に使用したプライマーペア(#1~#5。#2はFLNA遺伝子領域)の位置情報を示す。図の下段ではコピー数の変化を図示している。(b)Twin-AとTwin-BのゲノムDNAを用いたリアルタイム定量PCR法によるコピー数解析。マイクロアレイの結果と同様にXq28の特定の領域においてコピー数は1コピーから3コピーまで階段状に変化した。同じXq28でコピー数増加領域外に位置するMECP2遺伝子をリファレンス遺伝子とし、双生児同胞男性(II-2)のゲノムDNAを対照サンプルとした。(c)孤発性PSP(PSP-1~9)のゲノムDNAを用いたリアルタイム定量PCR法よるコピー数解析。FLNA遺伝子はTwin-AとTwin-Bでは2コピーであったが、孤発性PSPでは9症例全て1コピーであった。MECP2遺伝子をリファレンス遺伝子とし、PSP-1のゲノムDNAを対照サンプルとした。
Filamin-A p.Ala39Gly変異(FLNA
Ala39Gly
)によりFilamin-Aによる4R-tauの発現量増加作用は減弱する。GFP-4R-tauと共にFLNA
Ala39Gly
をHEK293細胞に発現させた。野生型Filamin-A(FLNA
WT
)共発現時と比較し、GFP-4R-tauの発現量は統計学的有意に減少した(P<0.05、n=3)。Student t検定を行った。*はP<0.05を示す。エラーバーは、標準誤差を示す。
TBS可溶性Filamin-AとPSP発症年齢の相関関係。Twin-AやTwin-Bを含めたPSPの11症例において、TBS可溶性Filamin-AとPSP発症年齢は負の相関関係を認めた。相関関係はPearson積率相関係数の無相関検定で評価した。
Twin-AとTwin-Bの臨床経過と神経病理学的特徴。NFT:globose-type neurofibrillary tangle、TA:tufted astroglia。神経細胞死/タウ病理の重症度は、なし(-)、軽度(+)、中等度(++)、重度(+++)とした。
Xq28のコピー数増加領域内のコード遺伝子。chrX:chromosome X、CNS;central nervous system、MIM:Mendelian Inheritance in Man。
剖検脳34症例の臨床情報と神経病理学的特徴。PSP:progressive supranuclear palsy、CBD:corticobasal degeneration、AD:Alzheimer’s disease、PD:Parkinson’s disease、DLB:dementia with Lewy bodies、ALS:amyotrophic lateral sclerosis、bvFTD:behavioral variant frontotemporal dementia、MSA:multiple system atrophy、SjS:Sjogren's syndrome、CIDP:chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy、PE:pulmonary embolism、M:male、F:female、PMI:post-mortem interval、ND:not done、AG:argyrophilic grain、CERAD:Consortium to Establish a Registry for Alzheimer's Disease。アスタリスク(*)は大脳半球の脳重を示す。
(a)モジュール構造。野生型Filamin-A(FLNA
WT
)は、N末端のアクチン結合ドメイン(ABD)及び24個の免疫グロブリン様ドメイン(Ig)を有する。FLNA
ABD+Ig1-15+Ig24
は、F-アクチン(F-actin)との蛋白相互作用に関わるアクチン結合ドメイン(ABD)、1番目から15番目のIg、及びFLNAの二量体形成に関わる24番目のIgで構成される短縮型FLNAである。FLNA
ABD+Ig9-15+Ig24
(ΔFLNA)は、ABD、9番目から15番目のIg、及び24番目のIgで構成される短縮型FLNAである。AAV9-ΔFLNA-6xHisは、ΔFLNA cDNAをアデノ随伴ウイルスベクター9型(AAV9)に搭載したものである。CBAはチキンβアクチンプロモーター、6xHisは6xHisタグ蛋白、WRPEはウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント、SpAはSV40 poly Aを示す。
図15の続き。(b)タウ抗体(TAU-5抗体)を用いた免疫沈降。各プラスミドをHEK293細胞にトランスフェクションした。ΔFLNAは、野生型FLNA(FLNA
WT
)及びFLNA
ABD+Ig1-15+Ig24
と同様に、タウ蛋白との相互作用を有する。
図15の続き。(c)タウ抗体(K9JA)とFLNA抗体を用いた蛍光免疫染色。(d)4リピートタウ抗体(RD4)とリン酸化タウ抗体(AT8)を用いたウエスタンブロット。野生型(WT)マウスの2ヶ月齢の右前頭葉にAAV9-ΔFLNA-6xHisを注入し、3ヶ月齢で解析した。*は注入位置を示す。ΔFLNAによりマウスの内因性タウの発現量増加とリン酸化を認めた。対照は、AAV9-empty-6xHisを注入したWTマウスである。
図15の続き。(e)4リピートタウ抗体(RD4)、3リピートタウ抗体(RD3)、6xHis抗体を用いた蛍光免疫染色。ヒトのタウ蛋白を発現する遺伝子改変マウス(hT-PAC-N)の2ヶ月齢の右前頭葉にAAV9-ΔFLNA-6xHisを注入し、3ヶ月齢で解析した。ΔFLNAにより4リピートタウと3リピートタウともに発現量が増加した。(f)ウエスタンブロット。脳ホモジネート(Ho)からTBS可溶分画(S1)とサルコシル不溶分画(P3)を抽出した。S1とP3において4リピートタウと3リピートタウともに発現量増加を認めた。対照は、AAV9-empty-6xHisを注入したhT-PAC-Nである。
CAGプロモーターの下流でヒトFilamin-A(FLNA)を発現誘導されるトランスジェニックマウス(hFLNA-Tg)の免疫染色。8ヶ月齢。海馬及び前頭葉皮質においてFLNAと4リピートタウの発現量増加を認めた。対照は、非トランスジェニックマウス(non-Tg)である。
(a)各プラスミドを妊娠14日齢(E14)のマウス胎児脳に子宮内電気穿孔法(in utero electroporation)により導入し、妊娠18日齢(E18)に蛍光免疫染色を行った。野生型FLNA(FLNA
WT
)は異所性灰白質を引き起こし、GFP-4R-tauの蛍光輝度を増加させた。一方、アクチン結合喪失型の変異FLNA(Filamin-A p.Ala39Gly変異:FLNA
A39G
)はそれらの変化を示さなかった。*、**は各々テューキー検定のP値0.05未満、0.01未満を示す。
図17の続き。(b)各プラスミドを妊娠14日齢(E14)のマウス胎児脳に子宮内電気穿孔法(in utero electroporation)により導入し、妊娠15日齢(E15)に初代皮質神経細胞を採取し、2日間の細胞培養後(2DIV)に蛍光免疫染色を行った。対照の0.1% DMSO投与時、野生型FLNA(FLNA
WT
)によりAT8陽性のリン酸化タウの発現量が増加したが、アクチン重合阻害剤サイトカラシンD(CytoD)投与時には増加しなかった。***はテューキー検定のP値0.001未満を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.進行性核上性麻痺(PSP)の治療
本発明の第1の局面は、フィラミンAがPSPの発症や病態形成に関与するとの知見に基づく態様であり、フィラミンA遺伝子の発現を抑制する化合物を含有する、PSPの治療薬(以下、「本発明の医薬」と呼ぶ)であり、好ましくはフィラミンA遺伝子の発現を抑制する化合物を有効成分とした、PSPの治療薬に関する。PSPはタウの異常病変を伴う神経変性疾患群(タウオパチー)の一つである。PSPでは、例えば、淡蒼球、視床下核、小脳歯状核、赤核、黒質、脳幹被蓋の神経細胞が脱落し、異常リン酸化タウ蛋白が神経細胞内及びグリア細胞内に蓄積する。原因や発症機構は不明であり、効果的な治療法が存在しないのが現状である。
【0009】
本明細書において「治療薬」とは、標的の疾病ないし病態(即ち、PSP)に対する治療的又は予防的効果を示す医薬のことをいう。治療的効果には、標的疾患/病態に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念である。尚、予防的効果の典型的なものは、標的疾患/病態に特徴的な症状の再発を阻止ないし遅延することである。標的疾患/病態に対して何らかの治療的効果又は予防的効果、或いはこの両者を示す限り、標的疾患/病態に対する治療薬に該当する。
【0010】
フィラミンはアクチン繊維架橋タンパク質であり、3種類のフィラミン(A、B、C)が知られている。フィラミンA及びBは各種臓器で発現しているが、フィラミンCは筋肉でのみ発現が認められる。フィラミンは分子量約280 kDのサブユニットがC末端で自己会合した2量体からなり、N末端側のアクチン結合部位を使ってアクチン繊維を格子状に架橋し、ゲル構造を形成する。脳室周囲異所性灰白質や家族性心臓弁膜ジストロフィー等にフィラミンA遺伝子の変異が関与していることが報告されている。尚、フィラミンAアイソフォーム1及びそれをコードする遺伝子(転写バリアント1)の配列をそれぞれ配列番号1(DEFINITION: filamin-A isoform 1 [Homo sapiens]. ACCESSION: NP_001447. VERSION: NP_001447.2)及び配列番号2(DEFINITION: Homo sapiens filamin A (FLNA), transcript variant 1, mRNA. ACCESSION: NM_001456. VERSION: NM_001456.3)に示し、フィラミンAアイソフォーム2及びそれをコードする遺伝子(転写バリアント2)の配列をそれぞれ配列番号3(DEFINITION: filamin-A isoform 2 [Homo sapiens]. ACCESSION: NP_001104026. VERSION: NP_001104026.1)及び配列番号4(DEFINITION: Homo sapiens filamin A (FLNA), transcript variant 2, mRNA. ACCESSION: NM_001110556. VERSION: NM_001110556.2)に示す。
(【0011】以降は省略されています)

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