発明の詳細な説明【技術分野】 【0001】 本発明は、シアリル糖ペプチドを含むBDNF産生促進用組成物、及び該組成物を含むBDNF産生促進用飲食品、医薬品、飼料に関する。 続きを表示(約 5,100 文字)【背景技術】 【0002】 脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)は高次脳機能の発現において最も主要な役割を果たす神経栄養因子のひとつである。BDNFは神経新生をはじめ、神経細胞の生存維持や成長、シナプスの機能亢進などの機能を有し、認知機能や記憶力の維持向上と密接な関連があることが報告されている。 【0003】 さらに、BDNFの産生が促進されることにより、過食を抑制し体重増加を防ぐことや、エネルギー消費を亢進すること、褐色脂肪組織におけるuncoupling protein-1(UCP1)遺伝子の発現を増加させること、末梢組織での糖利用を促進して糖代謝改善に関与すること、加齢に伴って低下する勃起能を維持させること、卵子を成熟させることなど、BDNFが様々な生体の機能に関与することが報告されている。従って、BDNF産生を増加させることにより、生体に対する良好な機能が発揮されることが期待される。 【0004】 上記のことから、BDNFの産生を促進させる物質として、常用可能な医薬品としての開発と共に、食品への添加が可能で日々の食生活を通じて継続的に摂取することができる安全性の高い剤の開発が望まれている。例えば、乳由来リン脂質を有効成分とするBDNF産生促進剤(特許文献1:特開2017-171595号公報)、Ile-Leu、Leu-Leu、Val-Leu、Ile-Val、Ile-Ile、Leu-Val、及びLeu-Ileのジペプチド(何れも分子量200程度)を含有するホエイタンパク質加水分解物を有効成分とする体内のBDNF量増加組成物(特許文献2:特許第6435079号公報)などがある。しかし、シアリル糖ペプチド(以下、SGPと略記する)がBDNFの産生を促進することは何ら知られていない。 【0005】 母乳や牛乳に含まれるオリゴ糖、糖タンパク質、および糖脂質には、総称して「シアル酸(炭素 9 個からなり、アミノ基とカルボン酸(酸性部分)を有するノイラミン酸の修飾体)」と呼ばれる酸性糖(以下、遊離シアル酸と呼ぶことがある)及びシアル酸部分を含有する化合物(以下、シアル酸部分含有化合物と呼ぶことがある)が多く含まれている。乳中のシアル酸部分含有化合物は、乳児(仔)の腸内細菌の定着や、脳神経系・免疫機能の発達、感染防御作用、などに寄与する有用な成分である。例えば、仔豚にシアル酸部分含有化合物(カゼイングリコマクロペプチド)を含む食餌を摂取させることで、仔豚の学習が強化されることが報告されている(非特許文献1:Wang Bら, Am J Clin Nutr, 85(2):561-9, 2007)。また、シアル酸部分含有化合物を含有する乳脂肪球皮膜(Milk Fat Globule Membrane:MFGM)が海馬のBDNF産生量を促進し、その効果は遊離のシアル酸と同等であることが示されている(非特許文献2:Brink Lら, J Nutr Biochem, 69:163-171, 2019)。乳以外にも、シアル酸部分含有化合物を含有する組成物とBDNF産生との関係について報告がある。シアル酸部分含有化合物(雀の唾液に含まれる糖タンパク質)を含有する燕の巣を摂取させた母マウスの乳で育った仔マウスでは、脳のBDNF産生量が増加することが報告されている(非特許文献3:Mahaq Oら, Brain Behav, 10(11):e01817, 2020)。また、シアル酸部分を含有する糖脂質(ガングリオシドGQ1b)が、神経細胞株やラット初代培養皮質神経細胞のBDNF産生を増加させることが報告されている(非特許文献4:MK Shinら, Neuropharmacology, 77:414-21, 2014)。このように、シアル酸部分含有化合物を含有する組成物はBDNFの産生を促進する効果があり、その効果を介した脳・神経系の機能向上が期待されている。 【0006】 多くのシアル酸は糖鎖の非還元末端に結合しており、シアル酸が結合する糖鎖の種類や結合様式は多様である。シアル酸は、オリゴ糖や糖タンパク質、糖脂質に含まれるガラクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミンなどの3位や6位に結合するが、シアル酸がα2-8結合で重合したポリシアル酸としても存在する。さらにシアリル糖鎖が結合するタンパク質や脂質の種類も多様である。したがって、シアル酸部分含有化合物におけるシアル酸の化学的な存在形態が異なると、当該化合物が有する生理機能も異なる可能性が高い。実際、ウニ由来のガングリオシドと牛脳由来のガングリオシドGM1、および遊離シアル酸のそれぞれを母マウスにシアル酸部分の摂取量が等量となるよう摂取させると、ウニ由来ガングリオシドはGM1や遊離シアル酸よりも効果的に仔マウスのBDNFの産生を増加させることが報告されている(非特許文献5:Wang Xら , Food Funct, 11:9912-23, 2020)。このように、シアル酸部分含有化合物によるBDNFの産生を促進する効果には、組成物に含まれるシアル酸部分の量だけではなく、その存在形態も重要である。そして、同じ換算量のシアル酸を摂取するのであれば、より高い効果が得られる存在形態でシアル酸を摂取することが効率的であり、そのような効率的にBDNFの産生を促進させる存在形態のシアル酸が望まれていた。Brink Lらの報告では、MFGMによるBDNF産生の促進効果は、MFGMに含まれるシアル酸部分と等量の遊離シアル酸でも同じ効果が認められる、と報告している。したがって、遊離シアル酸のBDNF産生促進効果を上回る特定の存在形態のシアル酸部分含有化合物を乳から見出すことができれば、それは従来にはない新たな乳由来のBDNF産生促進用組成物となる。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 特開2017-171595号公報 特許第6435079号公報 【非特許文献】 【0008】 Wang B, Yu B, Karim M, Hu H, Sun Y, McGreevy P, Petocz P, Held S, Brand-Miller J. Dietary sialic acid supplementation improves learning and memory in piglets. Am J Clin Nutr. 2007 Feb;85(2):561-9. Brink LR, Gueniot JP, Lonnerdal B. Effects of milk fat globule membrane and its various components on neurologic development in a postnatal growth restriction rat model. J Nutr Biochem. 2019 Jul;69:163-171. Mahaq O, P Rameli MA, Jaoi Edward M, Mohd Hanafi N, Abdul Aziz S, Abu Hassim H, Mohd Noor MH, Ahmad H. The effects of dietary edible bird nest supplementation on learning and memory functions of multigenerational mice. Brain Behav. 2020 Nov;10(11):e01817. Shin MK, Jung WR, Kim HG, Roh SE, Kwak CH, Kim CH, Kim SJ, Kim KL. The ganglioside GQ1b regulates BDNF expression via the NMDA receptor signaling pathway. Neuropharmacology. 2014 Feb;77:414-21. Wang X , Cong P , Wang X , Liu Y , Wu L , Li H , Xue C , Xu J . Maternal diet with sea urchin gangliosides promotes neurodevelopment of young offspring via enhancing NGF and BDNF expression. Food Funct. 2020 Nov 18;11(11):9912-9923. 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明の課題は、従来にないBDNF産生促進用組成物、及び該組成物を含むBDNF産生促進用食品、医薬品、飼料を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明者らは、BDNF産生を促進させるシアル酸部分含有化合物を鋭意検討し、シアリル糖ペプチド(SGP)に、神経細胞のBDNF産生促進作用があること、さらにSGPが哺乳動物の血中や脳のBDNFを増加させることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明には以下の構成が含まれる。 [態様1] スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合したシアリル糖ペプチドを含むBDNF産生促進用組成物であって、 前記シアリル糖ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、 前記糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースからなるものであり、 前記ガラクト-N-ビオースが前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、シアル酸はガラクト-N-ビオースに結合し、 前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースのモル比が1:1~2:1であることを特徴とするBDNF産生促進用組成物。 [態様2] 前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースの合算量が20重量%以上かつ6090重量%以下である態様1に記載のBDNF産生促進用組成物。 [態様3] 前記シアリル糖ペプチドのペプチド鎖のアミノ酸残基数が1以上13以下である態様1又は2に記載のBDNF産生促進用組成物。 [態様4] 前記糖鎖の構造が、以下の(1)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上である態様1~3の何れかに記載のBDNF産生促進用組成物。 (1)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1 (2)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1 (3)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1 (4)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1 (5)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1 [態様5] BDNF産生促進のみられる部位が、対象の海馬であることを特徴とする態様1~4の何れかに記載のBDNF産生促進用組成物。 [態様6] BDNF産生促進のみられる部位が、対象の血中であることを特徴とする態様1~4の何れかに記載のBDNF産生促進用組成物。 [態様7] シアリル糖ペプチドが乳由来である態様1~6の何れかに記載のBDNF産生促進用組成物。 [態様8] 態様1~7のいずれか1項に記載のBDNF産生促進用組成物を含むBDNF産生促進用飲食品。 [態様9] 態様1~7のいずれか1項に記載のBDNF産生促進用組成物を含むBDNF産生促進用医薬品。 [態様10] 態様1~7のいずれか1項に記載のBDNF産生促進用組成物を含むBDNF産生促進用飼料。 【発明の効果】 (【0011】以降は省略されています) この特許をJ-PlatPat(特許庁公式サイト)で参照する